普通の景色

土がもっと近かったころは 土は汚いものではなかったから 泥んこになって働いたり遊んだり 服や靴には土色が混じっていた 水がもっと身近だったころは 潮のかおりに包まれてみたり 水には音も光も匂いもあって 流れる水をいつまでも見ていた 雨が降ったら濡れて歩いて 雨脚が強くなったら雨宿りした 野菜には土が付いたままだったし 野菜のかたちは楽しかった いつのまにか景色は無機質になり 地面は硬い灰色で覆われて 都会の空に建てられたビルは まるで墓場の卒塔婆のようだ 空気のなかに聞こえていた歌は 騒音にかき消され聞こえてこない 昼間でも消えることのない街の灯りは 空の色まで変えてしまう 虹のかかった雨上がりの空とか 花でいっぱいになった草原とか 見たい景色はあるのだけれど もっと見たい普通の景色は いったいどこに行ってしまったのだろう